法人だからできる節税効果
「頑張らない起業」で、いますぐにでも開業してできる個人事業の節税についてはすでに述べました。
ここでは、個人事業から会社にして法人化すると、さらに進む節税効果について説明します。
なぜ、法人することが節税につながるのでしょうか。
その理由は、法人ならではのお得な投資や控除があるからです。
法人ならではのお得な投資や控除を紹介する前に、個人事業を法人化すると生じる主な節税メリットを紹介しておきます。
●法人化の節税メリット
- 自分の給与を役員報酬として損金で計上できます。給与所得控除が適用され、控除額のぶんだけ全体の所得を減らせるので、節税につなげることが可能です。ただし、受け取った個人には所得税がかかります。会社で売り上げた利益全額を役員報酬として計上すれば、法人としての課税所得は0円。会社が税金としては支払うのは、均等割でかかる住民税のみです。ちなみに「損金」は法人にのみ使われる税制上の会計用語で「原価、費用、損失」が含まれます。「経費」は、個人事業主が確定申告で事業に使った「費用」を計上するものです。
- 退職金も損金として計上が認められ、法人所得を減らす効果が得られます。個人事業でも一定の条件をクリアできれば給料やボーナスを必要経費にできますが、退職金は必要経費にはできません。
- 赤字になったとき、法人の場合は、欠損金の繰越控除が可能です。可能な期間は9年間、事業年度によっては10年間認められます。個人事業主(青色申告の場合)も、この赤字を翌年以降に繰り越してそれ以降に発生する事業所得と相殺できますが、その繰越期間は翌年以降3年間です。
ここでは「頑張らない起業」を対象としていますので、資本金1000万円以上の会社に関わるメリットなどについての詳細は省きます。
頑張らない起業でお得な投資その1「小規模企業共済」
頑張らない起業で、確定申告のときに全額経費となる投資の1つが「小規模企業共済」です。
国が行う節税効果の高い共済で、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しています。
会社員には退職金が出ますが、自営業をしている個人事業主や小規模企業役員には退職金はありません。
そこで1965年、国は自営業者や小規模事業者役員のために「小規模企業共済」を創設しました。
「小規模企業共済」は、自営業者や小規模事業者役員が払い込んだ毎月の掛け金を運用します。
解約時の扱いは、退職金または年金です。
それも元本保証の上、増えて戻ってきますので、国の主導でやっているリスクのない保険、投資商品とも言い換えることができます。
運用内容は投資信託ですが、こちらでは銘柄は選べません。共済にお任せです。
加入資格があるのは、個人事業主、フリーランス、小規模事業者の役員です。
毎月継続して払い込みをしていかなくてはなりませんが、その掛け金はすべて控除できます。
確定申告書の項目で年間の払い込み金額を記入するのは「小規模企業共済等掛金控除」の欄です。
民間の個人年金保険の掛け金の控除の上限は、所得税4万円、住民税2万8000円ですから、全額控除できる小規模企業共済を節税に使わない手はありません。
毎月の払い込み金額は、最低1000円から最高7万円までで、設定金額はこちらで選べます。
一度決めた設定金額でも、手続きさえすれば何度でも自由に変更可能です。
例えば、売上がたくさんあったときは7万円、そうでないときは1000円にしてもかまいません。
続けていかなくては成立しないので、利益が出ていないときは最低掛け金の1000円でもいいので続けていきましょう。
12ヶ月以上掛けていれば、その後の解約はいつでも可能です。
20年以上続けて掛けていて、解約時の事由が共済創設の意義に基づいた退職・廃業・死亡・老齢(65歳からも事業を現役で続けていくので退職するタイミングがない場合などが該当)であれば、元本は保証されて払い込み金額以上にお金が増えて戻ってきます。
中小企業庁が2019(平成31)年に発表した「小規模企業共済制度の平成31年度付加共済金の支給率について」によれば、積み立ての利回りは1.0%(解約事由:65歳での老齢給付)または1.5%(解約事由:廃業、死亡、解散)。
現在の定期預金の利息に比べると、ずいぶん高い利回りになります。
また、年間の売上がよいときにもっと節税をしたいと思ったら、一括払いで年間最大84万円まで支払うことができます。
ただし、20年に満たないうちに解約すると、戻ってくる金額はその年月によって減額されて元本割れになってしまいますので、注意してください。
解約金として戻ってきたら所得として課税されますが、受け取る共済金が個人事業主の「退職所得扱い」となった場合、「事業所得」などに比べるとはるかに税負担は軽いです。
65歳以上の老齢年金で受け取った場合は「公的年金控除」となり、年間110万円以下の受け取り分が控除されます。
民間の年金保険の年金受け取り額は雑所得の扱いとなるので、ここでも課税所得に差が出ます。
また、掛け金の納付期間に応じた貸付限度額の範囲内で、事業資金などを借り入れることもできます。
頑張らない起業でお得な投資その2「経営セーフティ共済」
経営セーフティ共済も、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する共済制度。
取引先が倒産してしまった際に、巻き込まれて連鎖倒産したり経営難になったりすることを防ぐ目的でできた制度です。
もしものときの安心サポートとして、いざというときに貸付を受けるために掛け金を預かる国主導の共済で、別名「倒産防止共済」といいます。
加入資格は、継続して1年以上事業を行っている中小企業者で、一定の資本金以下の小規模事業者です。
その掛け金は全額損金になります。
前納制度を使って翌年の1年分を前払いすれば、大きな損金にできて節税につながります。
この共済の実績は非常にユニークです。
貸付のための共済なのに、加入者51万件に対して貸付件数は300件程度。
貸付目的よりも節税目的で加入している人は多いと思われます。
掛け金は毎月最低5000円から20万円まで5000円刻みで、継続して掛けていきます(掛け金の総額の上限は800万円)。
手続きをすれば、その都度、変額もできます。
いざというときに貸し付けてくれる金額は、預けている掛け金の最大
10倍で8000万円まで。
無利子ですが、貸付を受けた場合に掛けていた積立金は没収されてしまいます。
なので実質は無利子とはいえません。
また、急に資金が必要になったときは一時貸付が使えます。
積み立てている掛け金の範囲内で、低い金利で借りられます。
金利は0.9%ほどです(2021年7月現在)。
加入から3年4ヶ月以降に解約すると、貸付を受けていなければ積み立てたお金はいつでも全額100%返金されます。
元本保証され、手数料もかかりません。
ただし、加入から3年4ヶ月に満たない場合は解約金が目減りしてしまいます。
また、解約時の返金の際は、いつでも一時所得として雑収入の扱いになり、課税対象です。
というわけで「経営セーフティ共済」では、掛け金は損金になりますが、預けても利息が付きませんし、税金もかかります。
返金時には一括売上となり課税所得となるので、節税については税金の繰り延べの効果しかないと思われがちですが、その年の業績が悪くて積み立ててきた掛け金以上の赤字が出そうなときに解約すれば、赤字と解約金が相殺されて掛け金をまるまる受け取ることができます。
「小規模企業共済」「経営セーフティ共済」共に、メリットとデメリットを踏まえ、自分のライフスタイルから判断して、利用するかどうかを決めていきましょう。
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