「FIREするにはいくら必要ですか?」——この質問に「1億円です」と即答する情報を見たら、少し疑ってかかってください。
結論から言うと、FIREに必要な金額を一つの数字で決めることはできません。生活費、税金、社会保険、年金、住居費、副収入、資産運用の前提が人ごとに違うからです。まず年間支出と将来入る収入を分けて、自分の不足額を計算すること。これが出発点です。
この記事では、金額の正解ではなく、あなた自身の数字を出すための計算手順を5ステップで解説します。電卓とねんきん定期便を用意して読んでください。
なぜ、必要額は人によって違うのか?
よく知られる「年間支出の25倍」という米国型の目安は、①支出が一定、②運用が年4%で回り続ける、③年金・退職金を考慮しない、という前提の上に成り立っています。日本で暮らす私たちの現実は、この3つとも違います。
年間支出300万円の人と500万円の人では、25倍ルールでも必要額は7,500万円と1億2,500万円——同じ「FIRE」でも5,000万円の差です。さらに年金や退職金の有無、リタイア希望年齢で必要額は大きく動きます。つまり、他人の数字は、あなたの計画には使えないのです。では、自分の数字を出しましょう。
ステップ1:年間支出を「税・社会保険込み」で出す
最初にやるのは、投資の勉強ではなく家計の棚卸しです。過去1年の支出を、生活費だけでなく、税金・社会保険料まで含めて集計します。
ここで見落とされがちなのが、会社を辞めた後の負担です。在職中は給与天引きで意識しない国民健康保険・国民年金・住民税が、リタイア後は自分で払う支出になります。「生活費だけ」で計算した計画は、この時点で数十万円単位の穴が空きます。
ステップ2:将来の収入を書き出す
次に、将来入ってくるお金を確認します。
- 公的年金:ねんきん定期便(またはねんきんネット)で見込み額を確認。将来の制度変更に備え、見込み額から2〜3割引いた保守的な数字も併記しておくと安心です
- 退職金・企業年金:会社の規程で確認。「あるはず」ではなく金額と受け取り方を調べる
- 副収入・事業収入:現時点である人は実額を、これから作る人はゼロで一旦計算
ステップ3:不足額を計算する
ここまでの数字で、期間を2つに分けて不足額を出します。
期間A(リタイア〜年金受給開始まで):年間支出 −(副収入)= 年間不足額A。これに年数を掛けます。
期間B(年金受給開始以降):年間支出 −(年金+副収入)= 年間不足額B。これに想定年数を掛けます。
必要資産の土台は「A+B」です。たとえば年間支出360万円、55歳リタイア、65歳から年金180万円(保守的見積もり)、副収入60万円なら——期間A:(360−60)×10年=3,000万円、期間B:(360−180−60)×30年=3,600万円、合計6,600万円。あくまで計算例ですが、「1億円」という漠然とした恐怖が、自分の構造を持った数字に変わったはずです。
ステップ4:運用利回りを楽観視しない
「運用しながら取り崩せば、もっと少なくて済むのでは?」——その通りですが、ここが一番危険な場所でもあります。
利回りは約束されていません。リタイア直後に相場の下落が来ると、資産の目減りと取り崩しが重なって計画が崩れる(いわゆる取り崩し初期の下落リスク)ことも知られています。ですから、運用の効果は「計画を楽にする上振れ要素」として扱い、計画の本体は保守的な前提(運用ゼロ〜控えめな利回り)で組むことをおすすめします。少なくとも、楽観シナリオ・標準シナリオ・悲観シナリオの3本で計算してください。
ステップ5:不足を「資産以外」でも埋める
計算の結果、「足りない」と出た人へ。埋める方法は、資産を増やすことだけではありません。
- 支出を下げる:年間支出が50万円下がれば、30年分で1,500万円の資産と同じ効果です。固定費とポイント活用の仕組み化から
- 小さな収入源を作る:月5万円の事業収入は、年60万円。取り崩しペースを大きく緩めます
- リタイア時期・働き方を調整する:完全リタイアの時期を数年ずらす、週数日の仕事を残す——設計の自由度は資産額より大きいのです
これが、資産運用だけに頼らない日本型FIREの考え方です(全体像は「日本型FIREとは?米国型FIREとの違いと現実的な始め方」へ)。
最後にひとつ、運用面での実務アドバイスを。この計算は、一度やって終わりにしないでください。支出も、年金見込みも、収入も、毎年変わります。年に一度、数字を更新して計画を見直す——この習慣こそが、どんな計算式よりも計画の精度を高めます。
よくある質問
Q. 結局、FIREには1億円必要なのですか?
一律には言えません。1億円は「年間支出400万円×25倍」という米国型の一例にすぎず、支出・年金・副収入・リタイア年齢で必要額は数千万円単位で変わります。自分の数字での計算が唯一の答えです。
Q. 独身と家族持ちで、考え方は変わりますか?
計算の枠組みは同じですが、家族がいる場合は教育費などの一時支出、配偶者の年金・収入、遺族保障を計算に加える必要があります。世帯単位で支出と収入を棚卸ししてください。
Q. 計算が複雑で自信がありません。誰かに相談すべきですか?
年金見込みや税・社会保険を含む個別の資金計画は、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談する価値があります。その際も、本記事のステップで自分の数字を用意してから行くと、相談の質が大きく上がります。
Q. 若いうちから計算する意味はありますか?
あります。必要額は「支出を下げる」「収入源を作る」ことで動かせるため、早く構造を知るほど打ち手の時間が増えます。数字は毎年更新すればよいので、まず一度、今の数字で計算してみてください。
※本記事は筆者の研究・実践の共有であり、特定の金融商品・銘柄の推奨や個別の投資助言ではありません。計算例は考え方を示すためのものであり、将来の成果を保証するものではありません。投資判断・資金計画はご自身の責任で、必要に応じて専門家にご相談ください。
日本型FIREの設計を、体系的に知りたい方へ。
『[超入門]2時間ではじめられる! 日本人のための日本型FIRE成功の秘訣がわかる本』(秀和システム)で詳しく解説しています。


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